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■自衛隊の対中国シフトと統合運用
    米軍とのさらなる一体化を許すな
     今秋期反演習―反基地―反戦闘争を

               犬飼現八





 陸上自衛隊は九月から一一月にかけて、ほぼ全隊員が参加する陸上自衛隊演習を行うとしている。一九九三年以来、二八年ぶりとなる。その日程と内容については、本稿執筆中には明らかとされていない。しかし、最近行われた各種演習を見れば、島嶼防衛のシナリオの下で陸自の機動展開力の強化、さらには陸・海・空の三自衛隊の統合運用、米軍とのさらなる一体化が目論まれていることは明らかだ。
 また、九州、琉球弧では自衛隊の新基地建設、現にある基地機能の強化、駐留部隊の再編、新設等が推し進められている。日米両帝国主義が中国との対決姿勢を強める中、琉球弧は前線基地とされ、戦場となることを強いられている。日米両帝国主義の戦争策動を打ち砕く闘いに立ち上がろう。


●第一章 今秋期自衛隊演習実施を許すな 反対闘争に取り組もう

 今秋期の自衛隊演習について詳細がまだ明らかとなっていない。NHKの四月一六日配信記事は次のように報じている。
 「北海道と東北、四国から『師団』や『旅団』と呼ばれる数千人から一万人規模の三つの部隊を九州に展開する予定で、全国の部隊が参加し、(中略)演習では隊員だけでなく戦車や食料も船や航空機を使って運ぶ計画で、詳細な内容は新型コロナウイルスの感染状況を踏まえて決めることにしています。陸上自衛隊は、今回の演習で南西地域を防衛するため部隊の展開や後方支援にどのような課題があるのかを検証し、実際の部隊の派遣に備えた計画づくりにいかすことにしています」。
 この演習について、二一年度予算では各部隊の移動や訓練資材を取得する経費として約二二億円が計上されている。陸上自衛隊のほぼ全隊員が参加する訓練としては、二二億円という数字が低すぎるのではないかとも思われるが、おそらく他の予算とも合わせて実施されるのであろう。「戦車や食糧も船や航空機を使って運ぶ計画」とあることから、海上自衛隊の参加も推測される。例えば、海上自衛隊の「おおすみ」型輸送艦は、戦車を一八輌、揚陸部隊三三〇名を運ぶ機能を有していると言われる。あるいは、民間船舶を利用することも考えられる。
 今回の陸上自衛隊演習は、陸上自衛隊が推し進めている「常続的陸上自衛隊展開訓練構想」(CPEC)に関連する訓練・演習に位置づけられている。CPECとは、「高い練度を保持した陸上自衛隊の部隊を南西地域等へ機動展開し、練成訓練を実施することにより、抑止力及び対処能力の向上を図る」と説明されている。この構想を実現するために次のような訓練を行うとされている。
 ①自衛隊演習
 ②北海道を始めとする国内や米国・オーストラリア等の国外の良好な訓練基盤への機動展開訓練等。
 ③機動師団・旅団の機動展開及び島嶼部における練成訓練。
 ④水陸機動団の艦艇と連携した南西地域における洋上機動展開及び島嶼部における練成訓練。
 これら四つの訓練計画の中に、米軍やオーストラリア軍との共同訓練が盛り込まれている。陸上自衛隊においても米軍やその他外国の軍隊との共同訓練が常態化しているということだ。さらに、陸海空の統合運用の訓練も進んでいる。
 実際、コロナ禍で、外国との交流事業等が軒並み中止となる中、自衛隊は多国間での共同訓練を盛んに行っている。五月一一日から一七日にかけて、鹿児島県と宮崎県にまたがる霧島演習場において、陸自、米海兵隊、仏陸軍とが共同で離島への着上陸訓練や市街戦を想定した訓練を行っている。仏陸軍が参加した霧島演習場での訓練が大きく報道されていた。だが、この演習は陸上での合同演習にとどまるものではなかった。海上では四カ国合同で上陸訓練時の海上での作戦行動(防空訓練、対潜訓練、着上陸訓練)の訓練を行っていたのである。五月一一日から一七日にかけて、陸上自衛隊(水陸機動団含む)、海上自衛隊、航空自衛隊、米軍、豪軍、仏軍とが参加して、日米豪仏共同訓練ARC21が実施された。
 海上自衛隊からは、護衛艦「いせ」、「あしがら」、「あさひ」、「こんごう」、輸送艦「おおすみ」、ミサイル艇「おおたか」、「しらたか」の他、哨戒機、潜水艦。米軍からはドック型輸送揚陸艦「ニューオリンズ」、P8A対潜哨戒機、MV22オスプレイ。豪軍からは、フリゲート艦「パラマッタ」。仏軍からは、強襲揚陸艦「トネール」、フリゲート艦「シュルクーフ」。さらに陸上自衛隊からは水陸機動団及び西部方面航空隊所属CH47JA輸送ヘリ、AH64攻撃ヘリ。航空自衛隊からは西部航空方面隊所属F2戦闘機が参加している。海自の輸送艦「おおすみ」は、大型ヘリやオスプレイが発着艦可能であり、ホバークラフトで推進するエアクッション艇(LCAC)が発艦できるウェルドックを有する。水陸両用車輌の運用も可能とするための改修も進められており、事実上のドック型輸送揚陸艦である。
 また、六月一一日から七月一八日の日程で、陸自と米陸軍との共同訓練「オリエントシールド21」が過去最大と言われる三〇〇〇人規模で実施された。滋賀県の饗庭野演習場では、共同訓練に先立つ二三日、陸上自衛隊が一二〇ミリ迫撃砲の射撃訓練で演習場外に着弾させるという事故を引き起こし、共同訓練での実弾射撃は中止となっている。
 北海道の矢臼別演習場では米陸軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)と、陸自の多連装ロケットシステム(MLRS)の実射訓練が行われた。また、鹿児島県の陸自奄美演習場で行われた訓練では、米陸軍が沖縄から地対空誘導弾(パトリオット)の発射装置を運び込んで、陸自の中距離地対空誘導弾を並べてシミュレーターによる訓練を実施している。
 海外での訓練としては七月三〇日に、グアムのアンダーセン空軍基地において、陸上自衛隊の第一空挺団一一〇名が米陸軍の特殊部隊とともに降下訓練を実施した。その際、横田基地から輸送機にてグアムまで移動している。
 この他にも陸上自衛隊では、本年度も富士総合火力訓練を実施した。昨年度に続き一般公開は中止したが、規模は拡大している。約二週間の演習で弾薬約七七億円、諸経費約九〇〇〇万円を投じた。三三〇〇人が参加している。コロナ感染が拡大する中で、むしろ訓練強化を図ろうとする日本政府、自衛隊の暴挙を許してはならない。秋期の陸自大演習反対闘争に立ち上がろう。


●第二章 西日本における基地強化

 島嶼防衛力の強化を名目に、西日本では訓練場や駐屯地の新設、米軍・自衛隊の基地機能強化が推し進められている。
 与那国島には二〇一六年に陸自与那国沿岸監視隊が新たに編成、配備された。
 奄美大島には一九年陸自奄美警備隊新編と第三〇一地対艦ミサイル中隊が配備された。
宮古島では一九年陸自宮古警備隊、二〇年、陸自第七高射特科群(地対空ミサイル部隊)の駐留、陸自第三〇二地対艦ミサイル中隊新編とが行われている。
 石垣島には、二三年に陸自第三〇三地対艦ミサイル中隊を配備しようとしている。
 琉球弧にミサイルを配備するということは、琉球弧を再び戦場とし、人民を危険にさらすことである。絶対に許してはならない。
 琉球弧への陸自ミサイル中隊配備にとどまらず、九州・沖縄の自衛隊機能強化が目論まれている。航空自衛隊のF35Bの配備をめぐっては、七月一五日、九州防衛局が宮崎県新富町にある航空自衛隊新田原基地が配備先として最適だとする考えを初めて示し、地元自治体に説明を開始した。その理由について防衛省は、馬毛島に整備する計画の自衛隊基地で訓練ができることや、広島県呉市に配備されている、事実上「空母化」する護衛艦「かが」との連携が可能なことを挙げている。二四年度に六機、翌年度に二機を配備し、将来的には一個飛行隊、およそ二〇機を配備する予定としている。
 長崎県においては、相浦に水陸機動団が配備され、佐世保は南西方面における後方支援部隊と位置づけられ、大規模な岸壁及び後方支援設備の整備が行われている。
 佐賀県には陸上自衛隊がオスプレイを配備しようとしている。これは長崎県における水陸機動団の配備と一体の計画だ。
 鹿児島県の西之表市の馬毛島にはFCLP(空母離発着訓練)の訓練場を建設しようとしているが、米軍のFCLPのみならず、一五〇から二〇〇名程度の自衛隊員が常駐する陸・海・空自の統合訓練基地にする計画を立てている。
 また、辺野古新基地建設(キャンプ・シュワブ)に関連して、キャンプ・シュワブに陸上自衛隊を駐留させ、米軍と共同使用する計画を、自衛隊と米軍との間で進めていたことが明らかとなっている 計画は正式決定されていないだけで、陸自のほかに内局や沖縄防衛局が関与している。西日本全体を自衛隊と米軍の訓練拠点にしようとしているのだ。
 航空自衛隊は那覇基地に第九航空師団を新設し、F15戦闘機を四〇機に増強した。
 南西諸島にミサイル部隊を配備する動きと連動して、現にあるミサイルの射程の長距離化や、迎撃が困難な滑空弾開発のための研究も進められている。F15戦闘機は、長距離ミサイルを運用するための近代化改修が計画されている。
 基地強化の動きと連動して地元自治体への懐柔策もとられている。軍事研究施設の建設が懐柔策として行われる事例すら起こっている。岩国では、現在、防衛装備庁の艦艇装備研究所岩国海洋試験評価サテライトが建設中であり、本年度中にも開設すると報じられている。デュアル・ユース技術を活用したUUVなどの研究を効率的かつ効果的に実施するとともに地元の高等教育機関等民生分野においても活用可能な新たな試験評価施設であるという。
 デュアル・ユースとは軍民共用ということである。この施設は、「政府関係機関移転基本方針」に基づく事業とされているが、岩国基地の機能強化と基地被害の強化とを岩国市に受け入れさせるための事業であることは明らかだ。では、岩国のサテライト施設で研究されるUUVとは何であろうか。UUVとは無人水中航走体であり、いわば水中ドローンとでもいうような物だ。海上自衛隊ではすでに自律型水中航走式機雷探知機なるものを装備化している。機雷を探知するのみではなく、爆薬を仕掛けて機雷を除去することもできるという物だ。今後は長期運用型UUVを開発する計画であるという。無人の小型潜水艇が警戒・監視を行うということだ。もちろん、デュアル・ユースを宣伝する以上、気象観測等の多様な任務に適応可能な技術の開発であると宣伝している。菅政権は、大学での軍事研究に反対する日本学術会議の会員任命に介入する等、軍産学協同を推し進めている。そのための施設を岩国に建設しようとしている。
 以上見たように、西日本では、軍事機能強化、戦争のできる体制づくりが推し進められている。基地や訓練の負担を押し付けるために、経済効果や交付金をちらつかせた地元自治体の懐柔が行われている。地元住民を分断して支配する攻撃がかけられているのだ。
 こうした基地の押し付けに対して、地元住民は粘り強い闘いを展開し、日本政府、防衛省の計画を阻止し続けている。
 宮古島では、駐屯地内に配備される警備部隊の火器について防衛省が住民に対して嘘をついた。実際には、中距離多目的誘導弾や八一ミリ迫撃砲弾といった威力の大きな砲弾が持ち込まれる計画であったことを隠し、住民説明会で「小銃弾や発煙筒など」と説明していたのだ。この嘘が明らかとなり住民の怒りが爆発した。当時の岩屋毅防衛相は謝罪に追い込まれたが、「説明が不十分だった」と言い訳を重ねた。その結果、搬入済みの迫撃砲弾などを当面、島外に撤去せざるをえなくなった。住民側の反発をうけて、弾薬庫の工事もずれこんだ。地対艦・地対空ミサイルは保管先を失い、島内に持ち込めない状態が作り出されたのである。
 石垣島ではミサイル配備の是非を問う住民投票の実施を求める住民の闘いが続いている。
 宮古島においては当時の下地敏彦町長が自衛隊駐屯地の選定を巡って収賄罪で起訴されている。
 佐賀空港へのオスプレイ配備に関しては、佐賀県知事が二〇年間で一〇〇億円の着陸料と引き換えに、一八年に受け入れを表明した。しかし、地元の同意は得られていない。地元漁協の闘いが配備を阻止している現状だ。防衛省はオスプレイを千葉県の木更津に暫定的に配備せざるを得ないという事態に追い込まれている。
 地元説明会をめぐっては今年三月に漁協側との約束に反して、当時の広瀬律子・九州防衛局長が一部の地権者に事前説明し、買収額を提示していたことが明らかとなった。漁協から抗議を受け、局長は交代に追い込まれた。事前説明会で提示した買収額に関しても撤回に追い込まれた。地元を分断させて反対運動を押しつぶそうという卑劣な攻撃だ。七月には地元説明会を開催しているが、具体的な話は何もなかったという。
 イージス・アショア配備計画の時と同じように、説明会では具体的な説明は行わず、裏で買収工作を進めている。住民を軽視する姿勢は何ら変わっていない。
 以上見たように住民の闘いは、日本政府・防衛省の計画を遅延させている。遅延させるということ自体が偉大な闘いの成果であり、勝利である。イージス・アショア配備計画については、防衛省は、すぐにでも配備に取り掛からなければならないと述べていたにも関わらず、撤回に追い込まれた。その後、イージス・アショアの設備を海上で運用するための協議が始まり、イージスシステム搭載艦を建造するという形でまとまった。ところが、今度はコストが高く、運用方法も定まらないとして、来年度の概算要求では建造費の計上が見送られることとなった。当初の配備目標だった二三年から一〇年近く遅れるという。
 名護市辺野古では、日本政府の全体重をかけた基地建設攻撃を阻止し続けている。沖縄人民の文字通り命をかけた闘いに連帯し、反基地で闘う全国の住民の連帯を強化し、戦争できる国造りを阻止しよう。


●第三章 対中国姿勢を強める米新戦略
日米の軍事一体化と自衛隊の再編


 アフガニスタンでは八月一五日、ついに首都カブールが陥落した。ガニ大統領をはじめ政府高官は国外へと脱出し、大統領府をタリバンが占拠した。米軍の完全撤退が完了する前にアフガニスタン政権が崩壊したのだ。通訳や政府スタッフが米軍への協力者とみなされると考えて、米国に退避を要求した。しかし米国は彼ら全員を退避させることはしなかった。
 米帝は自らが引き起こしたアフガニスタンの破壊に責任をとることなく、その犯罪性を満天下にさらした。にも関わらず、今また新たな世界戦略を展開しようとしている。
 米国防総省は、米軍態勢の見直しを行い、「グローバル・ポスチャー・レビュー」(GPR)を今夏にもまとめるとしている。中国を「最大の脅威」とみなし、米軍を中東周辺からアジア太平洋地域へとシフトさせようとしている。GPR立案に先立ち、米国防総省は「太平洋イニシアチブ」を設置し、二二年度会計予算として五一億ドルを要求している。
 米インド太平洋軍は予算要望書の中で、いわゆる第一列島戦に沿って地上発射型ミサイル網を構築するためとして、五年間で総額二九億ドルを計上している。在日米軍基地にミサイルを配備することを匂わせているのだ。
 米帝の対アジア戦略の転換が進む中、日帝と米帝との一体化が一層加速している。
 自衛隊においては陸海空の三自衛隊の一体化が進められようとしており、その再編過程に米軍が介入することで、日米の軍事一体化が推し進められている。「いずも」「かが」にF35Bが着艦できるようにする「空母」化が推し進められている。今年中には「いずも」へのF35B着艦訓練を米海兵隊が行うと報じられている。現在、F35Bは航空自衛隊に配備されることとなっている。つまり、「いずも」を「空母」として使用するには海上自衛隊と航空自衛隊の統合を進めなければならなくなる。例えば、航空自衛隊のパイロットがF35Bを着艦させたならば、次の発艦までの間に艦上で給油や整備を行う必要がある。この整備スタッフを海上自衛隊、航空自衛隊のいずれが担うのか。おそらく航空自衛隊であろう。すると、海上自衛隊の艦船に航空自衛隊のスタッフが常駐し、作業するという状態が生まれることになる。
 もちろんこのような体制づくりが一気に進むとは考えられない。当面は米海兵隊が「いずも」型への着艦訓練を行うことで海上自衛隊に空母運営の訓練を行うことになる。その過程で、米軍側のスタッフが整備員として「いずも」に乗艦することも考えられる。同時に、航空自衛隊に対しても「いずも」への着艦訓練を行う必要があるので、そちらにも米海兵隊が絡んでくると想定される。
 「いずも」「かが」が「空母」として機能するまでには、日米の軍事一体化が一層推し進められるという構造だ。となれば、新田原にF35Bが配備され、馬毛島で米軍のFCLP以外にも自衛隊が年一〇〇日程度訓練を行うということの狙いも見えてくる。FCLP訓練施設を利用して着艦訓練を行う可能性があるということだ。
 七月二八日に出された自民党の沖縄振興策では、国境を担う沖縄の振興は「アジア・太平洋地域の安定に資する」と明記された。沖縄振興を防衛に絡め、防衛に協力しないならば振興策を進める意味は無いとの宣言だ。
 沖縄は来年反革命的統合五〇年を迎える。アジア太平洋戦争において、沖縄は捨て石とされ、戦後は米軍政の占領下に置かれた。「本土」が占領から解放された後は、「本土」の米軍基地がさらに沖縄に集中することとなった。七二年の「返還」後も米軍基地のもたらす危険の下にさらされている。そうした状態を顧みることなく、さらなる基地負担を押し付け、あまつさえ、戦時には最前線となることを強いている。


●第四章 沖縄人民の命を危険にさらす
「対中国強硬路線」を許すな


 米帝は覇権維持に向けて対中国強硬路線を全面化している。世界の覇権を中国に渡さないという意思表示である。中国を封じ込めるための口実として「台湾有事」を作り上げようとしている。台湾では二〇年に行われた選挙で、民進党の祭英文が総統に当選した。立法院においても民進党が安定多数を確立した。二四年までこの体制が続くと判断されている。祭英文は、一国二制度での中華人民共和国との統一には反対しているとされている。こうした状況を背景に、台湾人民が独立を志向しているかのような言説が、米国、日本において量産されている。
 日本では、米国と台湾との関係が安定したものであり、米国が常に台湾を重視しているかのように報じられているが、米国はあくまで自国の利益を最大限にするために台湾を利用してきたのだ。現在、米国は「台湾」を正式な国家とは認めていない。一九七一年に米国が中華人民共和国と国交を正常化した。米国が「一つの中国」を支持したため、「中華民国」(台湾)は国連代表権を失った。七九年には米国と台湾の国交も断たれた。そのため、現在の台湾は国際社会では独立した主権国家とは認められていない。台湾と国交を断つ一方で、米国は米華相互防衛条約に代わり、国内法である台湾関係法を制定し、事実上、関係を維持する「あいまい戦略」をとったわけである。
 米国の対中強硬姿勢は今になって、「あいまい戦略」の転換を図ろうとしており、共和党上院議員のリック・スコットが「台湾侵攻防止法案」を提出している。今年三月にはデービッドソン前インド太平洋軍司令官が中国が、「六年以内に台湾進攻の可能性がある」と発言した。これに対し、七月六日にはカート・キャンベル米国家安全保障会議インド太平洋調査官は米シンクタンクでの講演で台湾関係法に基づいて「我々は台湾海峡における抑止力について明確なメッセージを送ろうとしている」と語る一方で「台湾の独立を支持しない」と語っている。現在のところ、「あいまい戦略」を維持した形だ。
 日本のメディアは発言があるたびにセンセーショナルに報道をしている。日本のマスメディアの多くは、大本営発表よろしく政府見解を垂れ流し、中国、朝鮮民主主義人民共和国に対する排外主義扇動のお先棒を担いでいる。「台湾有事」を引き起こすのが中国の側であるという一方的見地からのみ報道と解説を行っているのだ。米国、日本が危機を醸成している当事者であるという視点がまったく欠けている。アフガニスタン情勢を受け、台湾では米国の後ろ盾を疑問視する論調が出ている。けだし、当然である。
 米帝は第二次大戦後、冷戦期間を通じ、さらにその後も他国への侵略戦争を繰り返して多くの無辜の市民を虐殺し続けてきた。「自由主義対共産主義」「民主主義対専制政治」等、欺瞞的な価値観と理念、イデオロギーを振りかざし、一貫していたのは「米帝の利益第一」ということであった。「台湾」を巡る言説もまた、彼らの利益を最大化するための米帝内での駆け引きなのである。台湾有事が語られながら、日本の報道においては肝心の台湾人民の声がほとんど触れられていない。〇一年に米国がアフガニスタンに侵攻した際も、アルカイダ、タリバンと米国政府の動向とには関心が向けられたが、肝心のアフガニスタン人民についてはほとんど知られておらず、何より、侵攻した米帝自体がアフガニスタンについては知らないままであった。
 ブルジョア・マスコミは、釣魚諸島では、中国公船が連日侵入しているということを、沖縄の漁民が不利益を被っているということに触れつつ紹介しているが、何故、こういう事態になったのかについての考察が欠けている。ターニングポイントは石原慎太郎が東京都知事だった時に、魚釣島(釣魚台)を都で購入すると言い出したことに端を発する。これは単に石原の思いつきではない。嫌中派の石原が民主党政権下、対中国強行路線へと安保・軍事戦略の転換を狙った攻撃である。その後の「中国公船が連日領海を侵犯している」なる排外的キャンペーンが今日に至るまでブルジョア・マスコミを使って執拗に行われ、その後に登場した安倍反動政権の下の反中国世論形成の露払いの役目を果たしたのだ。そういった冷静な視点に欠けていると言わねばならない。
 麻生太郎副総理兼財務相は七月五日、台湾海峡情勢をめぐり、「大きな問題が起き、日本にとって『次は』となれば、存立危機事態に関係してくるといってもおかしくない。日米で一緒に台湾の防衛をやらないといけない」と述べた。台湾有事を念頭に集団的自衛権を行使できる存立危機事態の認定につながる可能性についての発言であるが、極めて悪質かつ意図的な発言だ。琉球弧にミサイルを配備し、中国に対する挑発行為を繰り返している中でこうした発言をすることは沖縄人民の生命を危険にさらす行為と言わなくてはならない。断固抗議する。
 七月一三日、政府は防衛白書を公表した。武器使用を想定した海警法を施行させ、海洋進出をはかる中国への警戒感を表わし、台湾情勢を日本の安全保障に重要だと明記した。また「自由で開かれたインド太平洋」を維持・強化するために、QUADと呼ぶ日米豪印の四カ国の枠組みでの協力を今後も追求するとしている。四月の日米首脳共同声明では「国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形で航行及び上空飛行の自由が保証される、自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認した」との内容が盛り込まれた。
 こうした声明に中国が抗議することをさも不当であるかのように語られているが、ここにも日米帝の欺瞞がある。南中国海は世界のどこの海とも同じく、国連海洋条約に合致した形での航行及び上空飛行の自由が保証されている。現に、今も多くの民間船が航行しているし、中国自身が海洋の自由によって大きな利益を得ている。米帝が言う「航行の自由」とは南中国海で米軍の艦船が自由に往来し、情報活動、示威行動を行うということだ。中国からしてみれば不当な言いがかりということになる。
 日本を取り巻く安全保障環境が格段に早いスピードで厳しさと不確実性を増していると、政府、防衛省は盛んに語っているが、安全保障環境を厳しく危険な状態に追いやっている要因は米帝と日帝自身にある。
 日本において、中国や共和国、さらには韓国に対する排外主義キャンペーンが激化している。インターネットやマスメディア上では、米国と一体となった対中国強硬論が日増しにエスカレートしている。その象徴が「台湾」と「尖閣諸島」である。「台湾有事」を中国が一方的に引き起こそうとしているかのごとき言説、釣魚諸島への中国公船の「侵入」キャンペーンが繰り返されている。マスコミは領土問題に関しては完全に日帝に屈服している。閣僚からは日中国交正常化と平和条約、四つの声明から逸脱する言説が繰り返され、世論も容易に排外主義キャンペーンに屈服してしまという構造が見られる。「領土」「領海」問題に対する歴史的経緯への無知が支配し、政権と国民とが互いに排外主義を焚き付けあっている。釣魚諸島問題に関しては与党のみならず野党も日本の領土であると主張し、「総翼賛体制」を呈している。
 また、釣魚諸島をめぐる安保条約の適応をめぐってもデマが世論を覆っている。
 菅・バイデンとの間で行われた日米首脳会談において、菅はバイデンから改めて、「尖閣」への日米安保五条「適用」の言質を引き出し、「米軍」が尖閣を軍事的に防衛してくれるかのようなデマ宣伝を行っている。日米安全保障条約第五条には「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と記されている。仮に、釣魚諸島をめぐって日本と中国の間で軍事的な衝突が起こったとしても、米国は自国の利害と手続きでしか行動しないということだ。自動的に米軍が参戦することにはならないということだ。あくまで当面は日本が中国と直接対峙することとなのだ。
 また、日米安保条約第五条は「前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない」とされている。つまり、日中の武力衝突は国連安保理に図られることになるのであり、米国が参戦すれば、安全保障理事国同士の争いになるので、米国としてはさらに参戦のハードルが上がることとなる。日米防衛協力の指針(ガイドライン)一五年版においても、島嶼部の防衛・奪還作戦は自衛隊の任務とされている。日中が武力衝突すれば自動的に日米安保が発動して米軍が参戦するという言説がデマ宣伝と言って良いことは明らかだ。
 そもそも、米中が「覇権争い」をしているからと言っても、経済的には深い関係にある。それゆえに、米中開戦の可能性は低いとの声も大きい。ただ、あくまで可能性が低いというだけで、米中戦争が起こらないことを保証するものは無い。戦争勃発の可能性を高める行為や言説は絶対に行ってはならないのである。
 こうした中、今秋期に行われる衆議院議員選挙の争点は、①対中国強硬の日米安保強化路線と国内戦争体制づくりの強化を許すのかどうか、②コロナ禍を利用した治安弾圧体制、国家管理支配体制の強化を許すのかどうか、③自衛隊の軍備増強をてこに改憲の動きを許すのかどうかである。これらを争点化していかなくてはならない。
 陸上自衛隊の今秋期の大演習は、陸自にとどまらず陸・海・空自衛隊を統合運用する計画の現時点での実効性を確かめ、さらに推し進めるためのものである。加えて、「台湾有事」、「尖閣諸島有事」を演出して推し進めている自衛隊の再編、琉球弧のミサイル前線基地化の一端を示すものだ。自衛隊の各演習に反対し、基地反対の闘いを推し進めることが、侵略のための軍隊としての自衛隊の完成を、ひいては日米軍事同盟の深化を押しとどめ、跳ね返すことにつながる。今秋期以降の闘いを断固として、強力に推し進めていこう。













 


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